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最終講義と論集『中世ヨーロッパの政治的統合体──統治の諸相と比較』刊行にあたり

この年度末は色々な意味で区切りの年となりました。自分自身の環境は変わりませんが、3月17日に恩師高山博先生の最終講義があり、その運営のため久々に本郷に出向きました。発起人8人で準備を綿密に進めており、会場のオンライン配信環境も十分、情報基盤センターのスタッフもとても親切でした。

講義の内容はいずれオンラインで配信されるようなのでここでは触れませんが、個人的に何よりほっと胸を撫で下ろしているのは、我々指導を受けてきた者が寄稿した論集がこの時までに無事刊行され、多くの方の元に届いたということです。かなり前から計画していたことなので(あとがき参照)、どうせならやはり最終講義に間に合わせるのが筋。それを逃すのは無粋というものでしょう。

中世ヨーロッパの政治的結合体(東京大学出版会)

目次は以下の通りです。

総論 中世ヨーロッパの政治的結合体(高山 博)

第I部 北欧・イングランド世界の政治的結合体 
総説 北洋世界の統治空間(小澤 実)
第1章 「長い一〇世紀」イングランドにおける王権と地方の政治的コミュニケーション(内川勇太)
第2章 収奪の場としてのイングランド(小澤 実)
第3章 ノルウェー王と北大西洋「貢税地」形成と関係の変容(成川岳大)

第II部 大陸ヨーロッパ世界の政治的結合体
総説 大陸ヨーロッパにおける政治的結合体とその統治(菊地重仁・加藤 玄)
第1章 「恩恵」の剥奪(菊地重仁)
第2章 カロリングの遺産とその伝承経路(柴田隆功)
第3章 中世フランドル伯領の領邦統治(青山由美子)
第4章 友好の場としての国王宮廷(森本 光)
第5章 「王」として「公」領を統治する(加藤 玄)
第6章 紛争解決からみる中世後期の神聖ローマ帝国(阿部ひろみ)
第7章 中世後期スイスの緩やかな政治的結合体(村松 綾)

第III部 教会世界の政治的結合体
総説 教会・修道会の統治(藤崎 衛・大貫俊夫)
第1章 教皇使節論(藤崎 衛)
第2章 中世教皇庁の財務管理ネットワーク(纓田宗紀)
第3章 中世ハンガリー王国における文書発給機関としての教会組織(鈴木広和)
第4章 盛期中世における修道会ガバナンス(大貫俊夫)
第5章 中世ドミニコ会統治における総会と総長(梶原洋一)

第IV部 南ヨーロッパ世界の政治的結合体
総説 南ヨーロッパ世界の政治的結合体(阿部俊大・向井伸哉・亀長洋子)
第1章 「大レコンキスタ」期における教皇庁のムデハルへの対応(阿部俊大)
第2章 一四世紀後半南仏ベジエ地方における自治体間の協力関係(向井伸哉)
第3章 居留地統治システムの発見(亀長洋子)

第V部 ビザンツ世界の政治的結合体
総説 ビザンツ帝国史の政体史と統治ガバナンス(草生久嗣)
第1章 『新勅法集』と『エクロガ』にみる皇帝立法の柔軟性(紺谷由紀)
第2章 ビザンツ統治政策とアルメニアの在地有力者(仲田公輔)
第3章 アレクシオス一世の爵位改革(草生久嗣)
第4章 ビザンツ帝国における皇帝の意思決定と諮問(佐野大起)

とはいえ、これが純粋に献呈論文集なのかというとさにあらず。高山先生ご本人が序文を書き、編集プロセスをよくご存知なので、よくあるサプライズは期待できません。当初から変な話だなとは思っていたのですが、単なる献呈論文集ではなく、学術的に意味のある本にしたいという思いを関係者一同共有していたので、今後の展開を考えるとこれしかなかったとも言えます。ところが、このような形は決して例外ではないのですね。最近出た鶴島先生、服部先生の論集も似たような形をとっています。トレンドなのでしょうか。

僕は「第III部 教会世界の政治的結合体』の総説で修道会についてまとめ、そこで初めて3つの規範レイヤーについて論じました。この議論は、今書いている単著にも盛り込む予定です。

さらに「盛期中世における修道会ガバナンス」という論文を書いています。クリュニー会とシトー会の成立過程とガバナンスについて、とくに巡察制度に重点をおいて比較しました。そこでは、レキシントンのスティーヴンが残した史料が巡察制度を知る上で大きな手がかりになっています。中世は常に口承文化と書字文化のバランスが問題になりますが、シトーは口承文化に依拠したガバナンスを実践していた、というのがおおまかな結論です。史料邦訳も多く挙げてありますので、ぜひお読みいただければと思います。

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