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子ども向け歴史学習漫画に関する雑感

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今年の夏は「ひろしまタイムライン」が注目された。朝鮮人に関してツイートがされるとすぐに批判が起こり、僕個人としては当然の批判だと判断したが、この朝日新聞の記事で佐藤卓己先生のインタビューを読むとその理由がよくわかると思う。この中で佐藤先生は、

近年のメディアの戦争特集は、歴史的な事実より、人々の共感を重視しているように見えるからです。近年の戦争に関する番組や特集はセンチメンタルなものが圧倒的に多い。

と述べていて、歴史の二次利用における問題を端的に指摘している。メディアにおいて特定の視点、しかも現代人にとって感情的に理解しやすい(肩入れ/敵対しやすい)視点が何度も繰り返されると、それに基づく一方的な歴史理解が醸成されてしまう。そのため、メディアに携わる人はこの点について常に自覚的でなければならない。

この「感情的に理解しやすい(肩入れ/敵対しやすい)視点」については、なにも理解しやすいからその個人(の敵対者)に感情移入するという話にとどまらず、メディアが描く世界設定が受け入れやすければ、それだけである一定の(そしてたいていは安直で時代錯誤的な)歴史認識がもたらされ、受け手の中に固着してしまうのであろう。

戦争問題とはかなりかけ離れているのだが、少し前にたまたま小学館の学習まんが『世界の歴史6 中世ヨーロッパ』を手に取ったこともあり、これを例に話を敷衍していきたい。

世俗の代表である国王や諸侯、キリスト教会の代表である教皇や司教がこの漫画の主だった登場人物である。一読してすぐにわかることだが、聖俗それぞれについて、かなり誇張された描き方がなされている。まず世俗の王たちが気になったのだが、クーデターを起こしてフランク王位についたピピンやその息子カール大帝は、いつも父親を超えることを考えている。エディプスコンプレックスの塊である。

ローマ教皇はもっとわかりやすく、冒頭でランス大司教レミギウスがメロヴィング朝の国王クローヴィスをカトリックに改宗させるシーンが出てくるが、レミギウスの物言いや表情は完全に悪党のそれである。その後に登場する歴代教皇も、ほぼ例外なく狡猾で陰でこっそりほくそ笑むタイプで、いやらしい印象を受ける。よくよく考えてみると、大学に進学してきたばかりの学生には、ローマ・カトリックの聖職者について同様の認識を持っている人が少なくない。高校世界史の教科書からそのような印象を受けることはまずないので、おそらく漫画などのメディア、あるいは宗教一般へのアレルギーによる影響が大きいのではないかと思われる。

以上はあくまで一例に過ぎないのだが、本書を読むと、中世ヨーロッパの世界が日本の時代劇のように思えてくる。しかし、時代劇も結局は近代化した日本の社会関係を江戸時代に投影して創出したものではないかと思うし(この点については専門書があるのだろうと思うがよく知らない)、この学習漫画はこれをさらに中世ヨーロッパに投影しているということであって、「歴史を学ぶ」という本書の目的からすると、かなり倒錯していることをやってのけているのではないかと思うのである。

本書は、人物描写に上のような傾向を持たせつつ、フランク王国、十字軍、百年戦争などが分かりやすく描かれている。ところどころ山川の『詳説世界史』に基づく知識が散りばめられていて、それはそれで大変勉強になる。ただ以上の理由から、「感情的に理解しやすい(肩入れしやすい)」描き方をお家芸とする国産漫画文化の土俵で歴史を学ぶのは、実はすごく難しいのではないかと思わざるをえない。史実であることを前面に出しながらフィクショナルな歴史観を伝えるより、むしろ最初からフィクションとして歴史的な人物やエピソードを取り上げ、それをもとに作者が創造性を発揮した方がずっと面白く、結果として歴史的素養の涵養にもつながるのかもしれない。

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