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2015年度後期教養科目「ヨーロッパ中世史と現代日本」について

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はじめに

  • 2015年度後期に初めて教養科目を担当しました。内容に歴史が織り交ぜてあれば基本的に何をやっても良いので、以前から試してみたいと思っていたやり方を導入することにしました。これが個人的にはとても上手くいったと感じたため、この記事でそれを授業の一つのやり方として提案してみます。
  • この授業の特徴は、大きく「内容」、「課題」そして「配点方法」とに分けて説明できます。そしてこれは歴史以外の専門でも応用が利きますので、もし関心を持ったら試してみていただければと思います。ただし、授業によってどういう履修者がいるかはまちまちだと思います。本授業は、ある一定の条件の履修者が集まった時に効果を発揮します。まずはその条件から考えていきましょう。

条件

  • この授業の履修者は、様々な学部の学生から構成されている方がよいです。総合大学はたくさんの学部から成り立っていますが、学部によって、そもそも大学は何のためにあるのか、授業とはどういうものであるのか、学生はてんでバラバラの考えを持っています。本授業では、そうした多様な参加者が自由に集まり、互いに刺激しあうことがとても大切になります。だからこそ、今回教養の授業を活用したわけです。案の定、文学部から医学部まで、少し文学部生が多いものの、とてもバラエティに富んだ学生が集まってくれました。
  • もう1つの条件は、大学に入りたての1年生が主体の方が良い、ということです。パワーポイントを使ったプレゼンの仕方、授業での発言の仕方、そしてレポートの書き方などがまだ身についていない状態の方が、教員として活躍の機会が多いでしょう。
  • 一般的に授業の形式は講義形式と演習形式がありますが、本授業は講義形式で、履修者は50人を超えました。以下、内容だけを見ると演習形式なのではないかと思われがちですが、ある程度履修者が多くても対応できるというのがこのやり方の利点の一つです。ただし、100人以上は多すぎるので、その場合は通常の講義をして座学してもらったほうがいいでしょう。

内容

  • 授業の各回は、以下の要素で成り立っています。
    • 担当教員によるレクチャー:今回はシーリア・シャゼル編著『現代を読み解くための西洋中世史』(明石書店、2014年)の各章を解説。以下に示したように、現代の問題につながる、社会的かつ論争的なテーマが扱われています。
      • 「犯罪と罰
      • 「拷問と真実」
      • 「社会的逸脱」
      • 「結婚」
      • 「同性愛」
      • 「性的なスキャンダルと聖職者」
      • 「労働」
    • 参加者によるディスカッション:レクチャーで扱ったテーマを踏まえて、現代日本の問題を4人くらいずつに分かれて議論してもらいます。時間があるときは「ワールド・カフェ」形式を援用し、複数回のセッションを導入します。ただし、今回はディスカッションに割ける時間が少なかったのが反省点として挙げられます。あと、教室が講義用だったので、机・椅子を自由に動かせませんでした。しかし、それはあまり本質的ではありませんので、本授業は講義用教室で十分対応可能です。
    • 参加者によるプレゼンテーション:前回扱ったテーマに即してこちらからお題を出し、1つのテーマについて4〜5人を募集(それ以上集まったら2組に)。ただし、みな学部が違うため、日常的に顔をあわせるのは不可能です。そのためLINEのグループを作ってもらって、情報共有できるようにします。1週間の準備の後、1組10分くらいで解説してもらいます。結局23グループが自発的に発表してくれたのでとても良かったのですが、反面、時間をずいぶん食ってしまいました。
    • 教員との質疑応答、コメントシート記入
  • 重要なのは、担当教員のレクチャーはあくまでディスカッションおよびプレゼンテーションに入るための枕に過ぎない、ということです。教員の解説がメインになるとただの「講義」になってしまうので、そこからは距離を置き、参加者が何かしら喋っている時間を最大限確保します。
  • ディスカッションやプレゼンテーションでは、あくまで現代の諸問題を扱います。西洋中世史について議論してもらっても無為に時間が過ぎゆくだけですので、例えばレクチャーで中世の聖職者による同性愛について話したら、現代の同性婚の問題、渋谷区のパートナーシップ、それへの抵抗運動など、テーマを細分化して議論をしてもらいます。
  • 授業の進行についてですが、例えば上で挙げた「同性愛」など、1つのテーマについて認識が十分深まったと思ったら、次のテーマに行きます。そのため、授業1回につき1テーマをこなす必要は全くありません(しかしこなした方が学生の受けは良いでしょう)。
  • これは経験的に確立したものですが、1回の授業はおおよそ「前回のテーマに関するプレゼンテーション」→「新しいテーマに関するレクチャー」→「新しいテーマに関するディスカッション」の順で進行します。

課題

  • 中間レポートと期末レポートを課します。それぞれ提出後すぐに採点し、散見される間違いなどを次回指摘します。
  • 期末レポートの締め切りは2段階用意しました。授業の最後から2回目の日までに提出してもらったものは、最終回で講評し、赤を入れたものを返却します。最終回の日に2回目の締め切りを設け、こちらは、1回目の締め切りまでに出してもらったものより配点を10点下げます。岡山大学の学生の場合、大半が1回目の締め切りに間に合わせてくれます(読むのが大変です・・・)。

配点方法

  • 配点方法は以下の通りです。
    • 自発的な発言(1点〜):「発言ルール」として、①1回発言したら1点(コメントシートで自己申告)、②同時に手を上げたら前に座っている人を優先、③発言による点数に上限なし
    • グループでのプレゼンテーション(1回につき10点)
    • 中間レポート(10点)
    • 期末レポート(50点or40点)
  • ここで特徴的なのは、自発的なアクションにどんどん加点していく点にあります。何か発言したら1点。プレゼンをしたら10点。これらを天井を設けず与えていきます。そのため、期末レポートを待たずしてすでに80点を超える人が出てきました。逆に言えば、自発的にアクションを起こさなければ、レポートで満点をとらない限り単位は出ません(つまり事実上落とす)。
  • 毎回コメントシートを提出してもらいましたが、それそのものには加点していません。つまり、出席点はゼロ。コメントシートは、学生の理解度や関心のありかを知るために、そして発言回数の自己申告のために出してもらいました。
  • 特にこの発言ルールは、塩澤一洋先生がお書きになっているブログshiologyの記事(3661-140430 講義開始前に座席が前から埋まる教室の仕組み)を参考にさせてもらいました。ここに書かれているやり方はどれも共感するものばかりです。
  • その他のルールとして、①人に迷惑がかからない限り飲食自由、②すぐ調べられるようノートパソコン、タブレットスマホなどを出しておくこと、の2点を提示しました。

問題点

  • やはり学生にはそれなりの姿勢が求められる授業であろうと思われます。基本的に「授業に出なくても単位」、「授業出たとしても後ろの方でスマホいじっていても単位」・・・という類の授業に人気が集まるものです。それが学生の心理であることは承知しています。しかし、この授業はそういう学生を最初から排除します。そのため、あまり寛容ではないという点が本授業の最大の問題点でしょう。
  • 学生は常にアクティヴさを求められます。配点にそういう工夫があり、参加者は初回にそれを見抜けたかどうかが試されています。うまく見抜いて「あ、これは楽ではない」と思った人はよその授業に行ったことでしょう。
  • 点数の集計は、TAのお手伝いなしには不可能でした。
  • あと、中国人留学生が7人ほど履修していました。日本語でのディスカッション、プレゼンテーション主体の授業は辛かろうと思いました。しかし、例えば死刑制度や労働問題について、中国ではどうなっているのか報告してもらったりして、日中の学生同士とても勉強になったのではないでしょうか。「大学のグローバル化」の意義を初めて実感しました。

試してみて

  • 「人を選ぶ」授業形式だったにもかかわらず、最終的に80人が履修登録し、うち50人に単位を出すことができました。常にアクティヴに参加してくれていたのは30人くらいでしょうか(出席点は取らないので、それなりの人が休みます)。つまるところ、この30人は好奇心が強く、積極的に発言をし、巧拙はありますがある程度の水準の文章を書けます。きっと今後も各学部で活躍してくれるのではないかと思い、そういう学生たちと濃密な水曜1限を過ごせたのはとても幸せでした。
  • こうした形式に抵抗感がある先生もおられると思いますが、座学が圧倒的に多い講義形式の授業でもこういうことができますよ、というご提案でした。フィードバックを頂戴できると嬉しい限りです。
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