『法の流通』
2009年、鈴木秀光・高谷知佳・林真貴子・屋敷二郎編『法の流通』(慈学社)に「ドイツ王権による修道院保護とシトー会総会」というタイトルの論文を寄稿させていただきました。博士論文で取り組んでいる内容からこぼれ落ちてしまった題材で、興味深いものはないだろうかと思案した結果、シトー会総会に焦点を当てて論じてみました。
『法の流通』は法制史学会60周年記念事業として出版された論文集です。最近気付いたのですが、雑誌論文や単著と違い論文集所収の論文はインターネット上で見つけにくいという欠点がありますので、今更ながらで恐縮ですが本ブログで紹介させていただきます。
西洋中世史に関わる論文は3本で、すべてパートII「拡散する法ー社会のダイナミズム」に入っています。一本目は図師宣忠「中世南フランス都市トゥールーズにおける公証人と法実践」。二本目が橋川裕之「ビザンツ帝国を救うべき新法――総主教アタナシオスのネアラについて」。
そして三本目が拙稿です。字数の問題で引用が相当制限されましたが、1270年代にシトー会修道院オルヴァルが陥った危機を巡って、十分に議論できたのではないかと思います。この危機に際してオルヴァルが初めてドイツ王権から受給した証書で、国王ルードルフ1世はこの問題をフランス国王に「アウトソーシング」します。
従来独仏外国史の文脈でこの件が取り上げられてきましたが、本稿ではこの件を題材にシトー会総会の機能・役割を多角的に論じました。もう少し議論が必要ではありますが,ドイツ国制史にとって12世紀の修道院改革が持つ意味を、今までとは違う観点から指摘できたのではないかと思います。実は最近になって議論をもう一展開できることに気付いたので、それは博士論文に盛り込みたいと考えています。
総会の決議録はカニヴェによるエディションが出て相当経ちますが、まだ総会については解明が始まったばかりです(ゲルト・メルヴィル門下シグレルの博士論文がまず参照されるべきF. Cygler, Das Generalkapitel im hohen Mittelalter, Münster 2002)。少なくとも13世紀一杯までは、個別の修道院が常に総会を介して修道院ネットワークの中にあったことは意識しておいた方が良いでしょう。そうすると、個々の出来事が違う色を帯びてくることがあって面白いのです。
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