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「総合型選抜対策ビジネス」について雑感

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先日、以下の記事が目に止まりました。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e3274878bf302d9798265879d4ed61d10c3a9a9c

この記事で「今、「総合型選抜対策ビジネス」はバブル状態にあります」とあり、それに続いて次のような説明がなされていました。

一方で、総合型選抜対策の指導はそうは稼げるビジネスではありません。そのため、一部の新興の業者は「総合型選抜は経験がすべて」といい、「経験」を売ろうとします。例えば、ある新興の推薦塾は旅行代理店から仕入れた観光ツアーに「留学プログラム」と名付け、転売しています。20万円のツアーを50万円で売れば30万円を「中抜き」できます。これをインフルエンサーに依頼して宣伝をさせます。10人が申し込んできたら、300万円が手に入り、そのうち10%をインフルエンサーに支払うわけです。

ようは勉強が苦手な子どもを持つ保護者に「総合型選抜なら学力がなくても経験を積めば大学に進学できますよ」とピーアールして、割高な「経験」を販売していくのです。

実に阿漕な商売ですが、大学側が学力試験を課す一般選抜、学校推薦型選抜以外に、基準があるのかどうかよくわからない総合型選抜を設ける以上、このような塾が現れるのは想像に難くありません。僕は普段このような話題には興味がないのでスルーするのですが、このことに関連して一つ思い当たることがあるので、ここで備忘録がてら何があったか記しておこうと思います。ひょっとすると、大学教員で同じような経験をなさった方がいるかもしれません。

この春、とある都立高校の生徒から、神聖ローマ帝国について質問したいことがある、という趣旨のメールが来ました。僕は素朴に、学校の総合学習のような授業で自主的にテーマを設定し、本を読みつつ、わからないことを研究者に質問して補強したいのかな、と考えました。神聖ローマ帝国に詳しい研究者は他にいるので、僕に聞くのは明らかに筋違いなのですが、ある程度解説することはできると思いお引き受けしました。

すると、次のやり取りで彼のメールの下半分に某有名私立大(僕も非常勤で行ったことがある)の学生からのメッセージが挿入されており、自分は大学受験対策講師で、補助要員としてzoomでのインタビューに同席できないか、と。了承しましたが、この時点で何かおかしいと思っていました。なぜ自分のメールアドレスから連絡してこないのだろう…と。

次のやり取りで質問項目が送られてきましたが、明らかに僕の専門にそぐわないものが含まれていました。それらについては答えられないことを説明するお返事を返したのですが、しばらく音沙汰なし。10日ほど経ってからきた返事には、質問については触れられておらず、事務的な日時の確認のみ。やれやれと思いながら当日を迎えます。

一通りの挨拶が済んでから、僕は高校生になぜ質問をするのに大学教員にアクセスするのか尋ねました。そうしたら、高校の授業は一切関係なく、大学入試に備えて好きな歴史について学びを深めたい、といった趣旨のことを話していました。こちらは、わかったようなわからないような、そんな気持ち。その後、高校生は(メールで告知していた通りの)質問を棒読みし、僕は可能な限り丁寧に答えます。

「〇〇はなぜですか?」「それは〇〇だからです」「ありがとうございます。次の質問に移らさせていただきますがよろしいでしょうか?」「はい。」・・・これを淡々と10回くらい繰り返します。途中、僕はその高校生と直接やり取りしているはずなのに、全然そんな感じがしなくなります。それはまさに空虚感、不全感。今思い返すと、あれはおそらく本人以外の誰かが作った台本のようなものに沿って会話が進んでいたのでしょう。その誰か、というのは、この高校生の親がお金を払っている塾、そしてそこで雇われているこの某有名私大の学生なのではないか。今となってはそのように思います。

もちろんこの一件は、上の記事で紹介したような総合型選抜ビジネスとは関係ない話だったのかもしれません。大学進学を志した高校生が大学生を見つけ出して仲介を頼む、ということもひょっとしたらあるのかもしれません。でも、そこまで行動力のある人なら、おそらく僕のメールアドレスを独力で見つけて、直接連絡をしてくるでしょう。神聖ローマ帝国の文献をしっかり読んでいるなら、より適切な研究者に辿り着いているでしょう。中途半端に世間慣れした(大学教員を「〇〇教授」と名指しするような)大学生が書くようなメールの文面なんて思いつかないでしょう。おそらくそうではない。

メールのやり取りからzoomでのやり取りに至るまで疑問符だらけのこの出来事は、こうした新しい入試の動向と結びつけてはじめて「ああ、なるほど」と思えたのでした。先方は塾名を明かさなかったので確かなことは言えませんが、学生による生徒への振り付けは実に強引かつ稚拙なものでした。まだ始まったばかりで、方法論が確立していないビジネスの一環だったのだろうと想像する次第です。しかしこちら側にしてみればそれに付き合う義理はないですし、振り回され、徒労感と不信感が残るだけです。今後、この種の依頼には慎重でありたいと思います。

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