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『法制史研究』(68号、2018年)
『法制史研究』(68号、2018年)が届いたので、ヨーロッパ中世史に関連するものをピックアップして読んだ。
田口正樹「ドイツ騎士修道会対ミュールハウゼン市」:ルートヴィヒ4世とカール4世期に勃発したドイツ騎士修道会とミュールハウゼン市の間の紛争が調停に導かれる過程を、綿密な史料分析によって跡付けるもの。国王裁判所で扱われた案件が教会裁判所に持ち込まれ、両者の複雑な(利害調整という意味で相補的な)審理を経てようやく解決される状況から、単純に国王裁判所が機能していないという理解は導かれない。興味深いのは、両者の紛争の原因が市内各教区における司牧の仕方をめぐるものだったという点。そもそもどちらが教区司祭を出すかも争点だが(これはドイツ騎士修道会側がほぼ抑える)、1350年代後半、ペストで死者が大量に出た際、市とその統制下にあった教区司祭は「鐘を鳴らさず簡素な方法で埋葬する方針を採った。」僕の問題関心は、鐘を鳴らさず簡素な方法で埋葬することがなぜ争点になったのかにあるのだが、論文はそれに言及していない。
書評は、田口正樹「櫻井利夫『ドイツ封建社会の城塞支配権』」、渡辺節夫「中堀博司「ブルゴーニュ公国と諸都市」」、森暁洋「田口正樹「中世後期ドイツ国王裁判権の活動としての確認行為(一)〜(三・完)他2本」」、薮本将典「横井川雄介「プランタジネット家領ガスコーニュ現地領主の上訴実態」」。田口先生の櫻井本の評価はすべて妥当。
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